fullseye

計測の不確かさと校正の知識 — 「測れている」を主張するために

fullseye には測る op がある(measure3d / math_metrology / measure1d / contour)。 だが測った値に意味があると言えるかどうかは、op の外側で決まる。 この文書は op の説明ではなく、寸法を数字で報告するときに要る規約 —— 用語・校正・ 不確かさの積み上げ方 —— を書く教材である。用語の定義は VIM(JCGM 200:2012)、 不確かさの評価は GUM(JCGM 100:2008)が正本。


1. 用語を厳密に(ここを混ぜると議論が成立しない)

VIM の定義(節番号つき、原文は英仏対訳):

用語 VIM 定義(要旨)
確度(measurement accuracy) 2.13 測定値と真値との一致の近さ。NOTE 1: これは量ではなく、数値では表さない
真度(measurement trueness) 2.14 無限回の反復測定値の平均と参照値との一致の近さ。系統誤差と逆相関し、偶然誤差とは無関係
精度(measurement precision) 2.15 指定条件下の反復測定における測定値どうしの一致の近さ。標準偏差・分散・変動係数で数値表現する
誤差 2.16 測定値 − 参照値
系統誤差 2.17 反復測定で一定、または予測可能に変わる成分
偶然誤差 2.19 反復測定で予測不能に変わる成分
繰り返し条件 2.20 同一手順・同一操作者・同一測定系・同一条件・同一場所、短時間での反復
再現条件 2.24 場所・操作者・測定系が異なる条件での反復
不確かさ 2.26 測定量に帰属される値のばらつきを特徴づける非負のパラメータ
校正 2.39 2 段階の操作(§2)
計量トレーサビリティ 2.41 文書化された切れ目のない校正の連鎖によって参照に結びつけられる性質

VIM 2.13 NOTE 2 は名指しで釘を刺している —— 「accuracy」を trueness の意味で使うな、「precision」を accuracy の意味で使うな。

これが実務で効く場面:

センサのカタログに「繰り返し精度 0.4 µm」とある。これは precision(2.15)であって accuracy でも trueness でもない。同じ値が繰り返し出ることと、その値が正しいことは 無関係である。絶対寸法を主張するなら真度と、その根拠(校正)が別に要る。

(同じ話が 3d/guides/depth_sensors.md §2.2–2.3 にある。真度を書くメーカーと、 精度しか書かないメーカーがある。)

不確かさの評価は 2 種類(GUM)

どちらも同じ土俵(標準不確かさ)に載せてから合成する。 拡張不確かさは合成標準不確かさに 1 より大きい係数(包含係数 k) を掛けたもので、 k は出力量の確率分布と選んだ包含確率で決まる。慣行として k = 2(およそ 95%)が多いが、 k を書かない拡張不確かさは意味が確定しない。


2. 校正は 2 段階である(1 段階だと思われがち)

VIM 2.39 は明示的に 2 ステップと書いている:

  1. 標準器が与える量の値(不確かさつき)と、対応する指示値(不確かさつき)との 関係を確立する。
  2. その情報を使って、指示値から測定結果を得る関係を確立する。

つまり ——

「校正した」= ズレが分かった、であって、直った、ではない。 ステップ 2(補正の適用)まで行って初めて測定値が変わる。

そして校正証明書には必ず不確かさが付いている。その不確かさは自分の測定の 不確かさに足される(VIM 2.41 の「連鎖の各段が不確かさに寄与する」)。 標準器より良い不確かさは原理的に出せない。


3. 画像計測の不確かさバジェット(実務の中身)

寸法 1 つを報告するのに、実際に積み上がる項:

種別 備考
Type A 同一視野・同一部品の反復撮像のばらつき まずこれを測る。10 回では足りないことが多い
Type A ワークを置き直したときのばらつき 上と分けて測る。ここが支配的なことが多い
Type B 校正ターゲットの校正証明書の不確かさ 連鎖の上流
Type B 画素量子化(分解能/√12 が一様分布の標準偏差) 下限であって実力ではない
Type B レンズ歪曲の残差 校正後の再投影残差から見積もる
Type B 温度ドリフト 暖機前後で差を測る。金属は 10⁻⁵/K オーダー
Type B 照明の変動とエッジのバイアス ★ 画像計測に固有かつ最大級

画像計測では照明が不確かさ源として最大級なのに、機械や光学の話だけで済まされる ことが多い。照明が変わるとエッジの見かけの位置が動く —— 閾値法なら閾値の位置で、 サブピクセル法でも輝度勾配の非対称で動く。同じ部品を、照明だけ変えて測り、 値が動くかを見るのが最短の確認である。


4. 分解能 ≠ 精度 ≠ 確度


5. Gage R&R(測定システム解析)

測定のばらつきを 繰り返し性(同じ人・同じ機械 = VIM 2.20 の条件)と 再現性(人・機械が変わる = VIM 2.24 の条件)に分けて分散に分解する手法。

慣行として、公差に対する %GRR を < 10% 可 / 10–30% 条件付き / > 30% 不可 と判定する (AIAG MSA の慣例であって、この閾値を国際規格が定めているわけではない)。

画像計測では「人」が居ないと思われがちだが、実際には人の寄与が残る: ワークの置き方、照明の角度と強度の調整、閾値やパラメータの設定 —— これらが 「操作者」の分散である。自動機でも段取り替えのたびに入る。


6. 校正ターゲット(画像計測)

ターゲット 長所
チェッカーボード 角の局在が良い。歪曲推定に効く 端の角が入らないと歪曲が決まらない。平面度が要る
円グリッド 重心が安定して求まる 射影で「円の重心」と「円の中心」がずれる(透視投影下の系統誤差)。テレセントリックでないと効く
リング/同心円 中心推定が強い 同上のずれは残る

7. fullseye での現在地(正直に)

要素 今あるもの 足りないもの
測る measure3d / math_metrology / measure1d / contour 不確かさを返さない(値だけ返す)
分解能の上限 optical_budget(Airy 半径・画素限界) Type B の一項としては使える
校正ターゲット 無し チェッカー/円グリッドの生成optscene で真値つきに作れるはず)
不確かさバジェット 無し Type A / Type B を積み上げて拡張不確かさを出す op
Gage R&R 無し 分散分解の op

次に作るなら: optscene で校正ターゲットを真値つきに生成し、校正 → 補正 → 残差、という閉ループを回せるようにするのが筋が良い。合成なら真値が既知なので、 校正手順そのものの真度を検証できる(実機ではできない)。


8. 診断表 —— 症状から原因へ

症状 まず疑う 確かめ方
同じ部品なのに測るたび値が動く precision の問題(Type A) 置き直さずに 30 回撮って σ を出す。次に置き直して 30 回。分けて比べる
値は安定しているが他の測定器と合わない trueness の問題(系統誤差) 校正済みゲージを測る。差が一定なら補正で消える
午前と午後で値が違う 温度ドリフト 暖機時間を変えて測る。装置と部屋の温度を記録する
照明を調整したら寸法が変わった エッジのバイアス 照明だけを振って値の変化量を測り、バジェットの Type B に入れる
視野の端だけ寸法が合わない 歪曲の残差/校正時に端の点が入っていない 再投影残差を画面位置ごとに描く
円の中心がわずかに外側へずれる 透視投影下の円の重心ずれ テレセントリックで撮るか、円の輪郭から中心を推定する
表示は 0.1 µm 刻みなのに再現しない 表示桁数と精度の混同 分解能・精度・確度を分けて書き直す
自動機なのに Gage R&R が悪い 段取り・置き方・パラメータ設定の人的寄与 作業者を変えて反復し、再現性成分を分離する

出典(一次情報)